カイエ

本とか色々

音という光 恩田陸『祝祭と予感』

カザマ・ジン。 jinn。なるほど、精霊の名は彼にふさわしい。 ――恩田陸「伝説と予感」 www.gentosha.co.jp めっちゃ久しぶりになってしまった。 とりあえず修論の草稿を脱稿しました、やったね。まあここから怒涛の直しが入るんですが…… ともあれ年は越せそ…

追憶は深く 千早茜『透明な夜の香り』

「香りは脳の海馬に届いて、永遠に記憶されるから」 「ガラスには匂いがないんですか」 私がそう言うと、朔さんはぼんやりとした目をした。 「うるさい夜とか、そこから見る世界はどんなものか想像するよ」 紺色の空気の中、透明なガラス瓶の底で眠る朔さん…

人を裁くは我にあり アガサ・クリスティ『そして誰もいなくなった』

「私が長年罪を裁いてきた経験から言えば、神は断罪と贖罪の仕事をわれわれ人間に任せています――しかし、その仕事はたやすくなしとげられることではないのです。近道はないのですよ」 ——アガサ・クリスティ『そして誰もいなくなった』 www.amazon.co.jp 私事…

叶わずに消えた憧憬 アガサ・クリスティ『ポケットにライ麦を』

――でも、とってもキレイな人でしょう。 ――アガサ・クリスティ『ポケットにライ麦を』 www.amazon.co.jp 本作『ポケットにライ麦を』は1953年に発表されたアガサ・クリスティの長編作品で、ジェーン・マープルを探偵役としたいわゆるマープルシリーズの一つで…

同じ月を見ていた 恩田陸『光の帝国 常野物語』

――僕たちは光の子供だ。どこにでも、光はあたる。光のあたるところには草が生え、風が吹き、生きとし生けるものは呼吸する。それは、どこででも、誰にでもそうだ。でも、誰かのためにでもないし、誰かのおかげというわけじゃない。 ――「光の帝国」 www.amazo…

はじめによせて

そういえば昔から書評というものは好きだった。 土日の新聞の文化欄なんかをチェックするのは好きだったし、今でも本を読むときの手掛かりにしている書評サイトなんかはいくつかある。冬木糸一さんの「基本読書」だったり、鳥ふくろうさんの「ボヘミアの海岸…